経営システム工学入門実験B
製品設計と実験計画法
担当教員:棟近雅彦
実験の目的

  物作りのステップの一つに,製品設計があります.製品設計では,製品企画で検討した製品のコンセプトを具現化するために,要求品質を具体的な物理特性に変換し,その物理特性を満たすための製品の仕様を決め,図面に展開します.仕様とは,製品の機能,性能,構造,形状等がどのようになっているかを表したものです.仕様を決めるには,製品の形状,採用する部品等を決定する必要があります.
  部品や形状をどのようにすればよいかを決定するには,いろいろな部品や形状を選んで実験を行い,その製品に要求されている品質特性値を計測します.そして,品質特性値が要求を満たしているものの中から,コストや作りやすさなどを考慮して最終的にどれを採用するか決定します.
  このような実験を行う際には,工数や予算は限られていますので,なるべく効率的に行うことが必要となります.効率化を追求する多くの手法を,この学科で学ぶわけですが,今回の実験項目では,製品設計における実験を効率的に行う手法である実験計画法が,どのような手法であるかを学ぶのが目的です.実験計画法は,統計的方法の一つであり,「数理統計学」,「実験計画法」などの講義で詳しく学ぶ予定です.今回は,そのさわりを体験してみましょう.

課題1

 みなさんが設計するのは,紙ヘリコプターです.この製品の重要な品質特性は「長く飛ぶ」ことです.指定の高さから落下させて,なるべく飛行時間が長い紙ヘリコプターを設計してください.
 まず最初は,各自好きな方法で最も長く飛ぶ紙ヘリコプターを作ってみましょう.
実験では,因子を選び,その水準を変更して,種々の紙ヘリコプターを作成します.因子とは,実験に取り上げる要因のことです.飛ぶ時間に効くのか,効かないのか,調べたい部品や形状の種類,原材料の種類などのことです.水準とは,因子を量的または質的に変える場合の,その段階のことをいいます.
  図1に紙ヘリコプターの構造図を,表1に今回の実験で取り上げる因子と水準の表を示します.例えば,因子B:「翼の長さ」という因子では,7cm,12cmという2水準があります.なお,因子の記号は,誤差(Error)と間違えないように,通常Eという記号は使いません.
図1 紙ヘリコプターの構造図



表1 因子と水準の表
 因子   \ 水準 第1水準    第2水準
A:翼の切り込み なし あり
B:翼の長さ 7cm 12cm
C:胴体の長さ 9cm 6cm
D:胴体の幅 2cm 3cm
F:胴体につけるクリップ 2個 1個
G:胴体の切り込み あり  なし
H:紙の種類 120 g/㎡(約0.126mm)  200g/㎡(約0.200mm) 


 原材料は,図2に示すA4の用紙です.紙の種類は,厚みの違うものが2種類あります.図2には,紙ヘリコプターを作成しやすいように,補助線が入れてあります.取り上げる因子と水準を決めたら,図3のように線を引き,切り取って紙ヘリコプターを作成してください.太い赤線がはさみで切り取る部分,破線が折り曲げる部分です.図3に描かれているのは,
A:A2 翼の切り込みあり
B:B1 翼の長さ=7cm
C:C1 胴体の長さ=9cm
D:D1 胴体の幅=2cm
G:G2 胴体の切り込みなし
の場合です.
 胴体の真ん中に線が消えている部分がありますが,どの条件のヘリコプターかがわかるように,ここに番号を書いてください.

図2 紙ヘリコプターの原材料



図3 紙ヘリコプターの作図例


  実験回数は8回まで可能です.ここで1回の実験とは,上記のいずれかの水準を選んで紙ヘリコプターを作成し,飛ばすことを指します.1回につき,3回落下させて記録をとってください.記録は,以下のExcelの表にまとめてください.

表2 記録表(Excelの表)
実験No. A B C D F G H タイム1 タイム2 タイム3 平均値
1 1 1 1 1 1 1 1 1.76 1.85 1.81 1.807
2 1 2 1 2 1 2 1 2.71 3.12 2.99 2.940
3                      
4                      
5                      
6                      
7                       
8                      


  この表で実験No.1は,すべての因子を第1水準で実験したことを示しています.同様に実験No.2は因子A,C,F,Hを第1水準で,因子B,D,Gを第2水準で実験したことを表します.この要領で8回の実験を行い,記録してください.

[明らかにすべきこと]
この実験から以下のことを明らかにしてください.
(1) 因子のうち,飛行時間に効果のあるものは何か.
(2) 効果があるとしたら,第1水準と第2水準でどれぐらい違うのか.
(3) 最も長く飛ぶ紙ヘリコプターはどのような仕様か.すなわち,最適水準はどれか.

 最適水準を明らかにしたら,その水準で紙ヘリコプターを作成し,飛行時間を計測してください.その際,上述の実験と同様に3回落下させて,3回の測定値と平均値を求めてください.

  では,課題1で行うことを以下に整理しておきます.
 1) 表1の因子と水準表から,各因子について水準を一つ選び,紙ヘリコプターを作成する.
 2) 2.5mの高さから落下させ,飛行時間を記録する.
 3) 表1の別の条件を選び,紙ヘリコプターを作成し,2)と同様に飛行時間を測定する.これを実験回数が8回になるまで繰り返す.
 4) 8回分のデータを解析し,上記[明らかにすべきこと](1)(2)(3)を明らかにする.
 5) 最適条件を求めたら,その水準で紙ヘリコプターを作成し,飛行時間を3回測定する.既に行った8回の実験と,飛行時間を比較する. 

課題1のレポートは,表2とそれを解析した内容についてまとめてください.

 上記に示した[明らかにすべきこと]は,データ分析に基づいて説明してください.根拠なしに「因子Aが効いている」という説明は不可です.必要に応じてデータをグラフ化し,科学的分析に基づいて結論を述べてください.

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課題2

次に,下表の計画に従って8回の実験をやってみましょう.


表3 課題2の実験計画(Excelの表)
列番号  1 2 3 4 5 6 7        
 実験No. A B C D F G H タイム1 タイム2 タイム3 平均値
 1 1 1 1 1 1 1 1       x1
 2 1 1 1 2 2 2 2        x2
 3 1 2 2 1 1 2 2        x3
 4 1 2 2 2 2 1 1        x4
 5 2 1 2 1 2 1 2        x5
 6 2 1 2 2 1 2 1        x6
 7 2 2 1 1 2 2 1        x7
 8 2 2 1 2 1 1 2        x8


実験の方法などは,課題1の時と同様です.


課題2の解析

  課題2で用いた実験の方法は,L8直交配列表と呼ばれる実験計画法の中の一手法です.直交配列表における行は,1回の実験の条件を表します.また,縦方向を列と呼び,L8直交配列表には7列あります.1列に1つの因子を割り付けることができます.この実験の例では,第1列に因子Aが,第2列に因子Bが割り付いています.
  各因子の効果は次式によって求めることができます.

                                                              (1)

T1:第1水準の合計,T2:第2水準の合計


このS(k)を平方和と呼びます.例えば,Aの効果を出したいときには,実験No.1~No.4が第1水準,No.5~No.8が第2水準ですから,

        (2)

で計算できます.これをすべての列について計算し,以下の分散分析表にまとめてください.

表4 分散分析表(Excelの表)
要因 平方和S 自由度φ 分散V F値
A        
B        
C        
D        
F        
G        
H        
合計        
なお,平方和を計算するには,以下のように先の直交配列表の「2」を「-1」に置き換えて,平均値との積和をとるようにExcelで作成しておけば簡単になります.下表をダブルクリックして,Sの行にどのような関数が入っているか確認してください.


表5 平方和の計算例(Excelの表)
列番号  1 2 3 4 5 6 7        
 実験No. A B C D F G H タイム1 タイム2 タイム3 平均値
1 1 1 1 1 1 1 1       1
2 1 1 1 -1 -1 -1 -1       4
3 1 -1 -1 1 1 -1 -1       6
4 1 -1 -1 -1 -1 1 1       8
5 -1 1 -1 1 -1 1 -1       6
6 -1 1 -1 -1 1 -1 1       3
7 -1 -1 1 1 -1 -1 1       8
8 -1 -1 1 -1 1 1 -1       2
S 0.0 12.5 8.0 2.0 24.5 2.0 0.5        


 上記の例について分散分析表にまとめると以下のようになります.


表6 分散分析表の例(1)(Excelの表)
要因 平方和S 自由度φ 分散V F値
A 0.0  1 0.0   
B 12.5  1 12.5   
C 8.0  1 8.0   
D 2.0  1 2.0   
F 24.5  1 24.5   
G 2.0  1 2.0   
H 0.5  1 0.5   
合計 49.5  7    


  次に,平方和が相対的に小さい因子を誤差としてまとめます(これをプーリングと呼びます).この例ではA,D,G,Hをまとめます.右端の「F値」の欄にはそれぞれの分散を誤差分散で割った値を書きます.「F値」が6.0を越えていれば,その因子が効いていると判断できます.


表7分散分析表の例(2):プーリング後(Excelの表)
要因 平方和S 自由度φ 分散V F値
B 12.5  1 12.5  11.1 
C 8.0  1 8.0  7.1 
F 24.5  1 24.5  21.8 
誤差 4.5  4 1.1   
合計 49.5  7    


  表7から,因子B,C,Fが効いていることがわかります.
  では,効いている因子がどの程度効いているのか,次のようなグラフを書いてみましょう.
  B1 B2
  1 6
  4 8
  6 8
  3 2
平均値 3.5 6.0

図4 データプロットの例


このグラフから,B2はB1よりも平均値で2.5程度飛行時間が長くなることがわかります.Bに関してはB2が最適水準となります.同様に,他の因子も調べて最適水準を求めてみましょう.

   では,課題2で行うことをまとめておきます.
1) 表3の直交配列表に従って実験を行う.各実験で3回ずつ落下させるのは,課題1と同様である
2) 「課題2の解析」に従って解析を行う.
3) 課題1と同様に,下記の3項目を明らかにする.
   因子のうち,飛行時間に効果のあるものは何か.
   効果があるとしたら,第1水準と第2水準でどれぐらい違うのか.
   最も長く飛ぶ紙ヘリコプターはどのような仕様か.すなわち,最適水準はどれか.
4) 課題1と同様に,最適条件を求めたら,その水準で紙ヘリコプターを作成し,飛行時間を3回測定する.既に行った8回の実験と,飛行時間を比較する.


 課題2のレポートは,上記解析の内容と,自分たちが行った実験と直交配列実験の違いを考察してまとめてください.

 実験の違いを考察するにあたってのヒントを以下に示します.このヒントを参考に考察を行ってください.


考察にあたってのヒント

課題2での実験計画は以下のようになっている.
列番号 1 2 3 4 5 6 7 データ
実験No. A B C          
1 1 1 1 1 1 1 1 x1
2 1 1 1 2 2 2 2 x2
3 1 2 2 1 1 2 2 x3
4 1 2 2 2 2 1 1 x4
5 2 1 2 1 2 1 2 x5
6 2 1 2 2 1 2 1 x6
7 2 2 1 1 2 2 1 x7
8 2 2 1 2 1 1 2 x8

  因子Aの第1水準の効果をα,第2水準の効果を-αとする.(常にA1,A2の平均を0とすることができるので,一般的性は失わない.)同様に因子Bについて,第1水準の効果をβ,第2水準を-β,因子Cはγ,-γとする.
 この実験を行うときの全体の平均をμ(これを一般平均と呼ぶ)とすると,No.1の実験データは,Aが第1水準,Bが第1水準,Cが第1水準であるから,誤差を無視すれば
 x1=μ+α+β+γ
と書ける.同様にNo.4の実験データは
 x4=μ+α-β-γ
と書ける.
 これを参考に,すべてのデータを書き表してみなさい.また,テキストの式(1)中の(T1-T2)を計算してみなさい.


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